SSブログ

そうあるということ [作る事]

先日、面白い紙への刷りを体験させてもらうという
機会を得ました

蔵書票.jpg

シミのついたフィルターです。


紙は和紙
刷れるかどうか試すという機会をいただきました。

たまたまその時に持っていたのがこの蔵書票だったので
試しに二枚刷らせていただきました。
綺麗に刷れて、紙についたシミが良い味わいを醸し出しています
急だったので、合う合わないは関係なく
この版画を刷りました。
これは蔵書票と言って
かつて本が高価だった頃
自分の蔵書である事を示すために
本の見返し部分に貼られたものなのですが
Exlibris (〜の蔵書から)というラテン語
今では、一つのアートジャンルのようにもなっています。
私はあまり作ることは無いのですが
作家が注文を受けて
絵柄のリクエスト等も受けて制作し
数十枚と刷って提供(販売)します。
決まり事としては、
Exlibrisという文字と蔵書主の名前が入る事
この版画は、私が試しに作った物なので
私の名前yukoが入っています。
というのは蔵書票の話しですが

この紙、つまりいつもと違う紙に刷ってみると言う経験
それがとても面白かったのです。
版画の絵の他に
もう一つ景色が加わります。
紙が持つマチエール
それが絵に味を加えてくれます
さらに皺やカタチもまたそのあじわい。

こんな風に試した事のない紙や
版画そのものを作る手順、版そのものの素材
それらが私にとって始めての物ならば
そこには必ず
何とも言えないワクワクが加わります。
もちろん、機をてらうことが大事な訳ではなくて
気持の奥底でちょっと「わくっ」とする事が
ひとつまみの塩のように
味を変える事がある
ほんのちょっとした事が気持を変えるということ
そいうことが
何かを続けていくために
とっても大事かもしれないと思うのです。
そんなチャンスをくれた、とある人へ感謝です!

個展が終わってから私は
少し乾いたというか、カサカサした気持を抱えていました。
先の予定も決まっているので
着々と制作して行かなくてはならないと思う気持と
その目的故に
無理矢理作品をカタチにしようとする自分への不快感がちょっとあって
あえて展示向きではない版画を作ったりしていました。
そう、ここ一ヶ月程
もともと、展覧会前に気持をぐぐっと追い込んで制作するという事が苦手な私は
あてもなくただ作り続けた何かの中から
その時の私にとって核となっていたのが何なのか?を探し出して
始めて自分の想いを理解して(ちょっと呆れるけど)
それを展示するというスタイルをとってきました。
だから、展覧会の準備には1年くらいの時間を要してしまいます。
当然、日々作り続けないと間に合わないという焦りが付きまといます。

そんな想いを抱えていた最中
このシミのついた紙と
友人の展覧会へ行く途中たまたま出会った骨董市(といっても高価な物ではなくて)でみつけた
ちょっと興味深い紙
二種類の新鮮な紙との出会いがありました
これはちょっとした気分の転換をもたらしてくれました
版画って刷る紙を変えるだけで、がらりと変わることもあるのだと。
凄く当たり前のことなのですが
煮詰まっている時には、絵柄ばかりに気持が傾いてしまって忘れがちな事
身動きが取れなくなってしまうことが多々あるのです
だからと言って
そういった紙や素材に頼ると言う事ではなくて
ただそこにはいろいろなモノがある
様々な事へゆるりと目を向ける大事さ
私がこうあって
何かがそうあって
向き合い方がどうあることが今一番良いのか?
そうあること
試してみる事
納得する事
そして先へ進む事

仕切り直しです。

切っ掛けは何でも良いのかもしれません本当はね。。

だからといって
何かがわらわらと湧いてくる訳でも無いのですが(笑)

様々な物が人が
そうあるということ
それに振り回されるのではなくて
30mくらい離れてみたらどうかな?
20mなら?5mだったら?
ってね
いろんな距離で見てみようと思ったのでした。

さて、
私はイラストの仕事をしながら
展示や作品の販売をしているので
直接作品のご注文をいただく事もあります。
そしてご注文頂く時に
ちょっと楽しげな、そして嬉しいエピソードがついて来たりする事もあります。
たとえば
2年前の私の展覧会の時中学生だった女の子が
私のクジラの作品を見て、お母様とある約束をしました。
中学校卒業の記念にこの絵を買って欲しいと。
その時私は、その言葉だけで嬉しかったのですが
だって、その年頃の女の子がお洋服でもバッグでもなくて
私のモノクロの版画を欲しがってくれるなんてって。
そして時が過ぎ、気持が変化しても不思議のない年頃のその子は
今年中学を卒業しました。
そして今年の個展の時、その子は受験のため展示には来られなかったのですが
お母様がいらしてくださり、その出がけ娘さんが言ったそうです。
「お母さん覚えていますよね」
母「なんですか?」
「クジラですよ!」
母「覚えていたか〜」
(笑)
お母様はあれこれ眺めて迷ってくださって
それでも、娘さんとの約束のクジラをお買い求めくださいました。
お母様としては何かと物入りな高校入学、悩ましいところだったと思います。
私としては彼女が今も欲しいと思っていた事が
何より嬉しかったのです。

そして春は卒業入学等等さまざまなお祝い事もある季節です。

今日またお祝いの品として、版画をご注文をしてくださった方がありました。
音楽に関わっている方への贈り物だそうです。
月の雫をかこんで大きな輪になって踊る絵です。
タイトルは「ノクターン」
こんな風に、何かの折に
プレゼントとして選んでいただける事を
とても幸せな事だと思っています。

だから正直な思いをカタチにして作って行きたいと思います。

まわりにはいろいろな想いを抱えて暮らしている人がいます。
必ずしも皆、楽しい気持でいる訳ではありません。
苦悩している人も
葛藤を抱えている人も
涙している人もいます。
でもやがて陽が差して
ふわりと暖かくなる事を願って
大変な事が過ぎて
暖かな季節がくるように
穏やかである事
そうであるということ
自分も含めそう願いたいと思います。

そんな風に思いながら
エピーソードがヒントとなって
また何かが描ける気がします。

コメント(0)  トラックバック(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

青のはじまりその人が見ているもの ブログトップ
Copyright (C) Yuko Hosaka.
イラストレーター/銅版画家 制作のこと、日々のことなど

種々多様ものづくり作家

mail: yukohosaka939@gmail.com

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。